紹介記事
2021年もそろそろジ・エンド。当然我が「テイスト・オブ・ジャズ」も、今年は幕閉めとなる。毎年最後の放送は1年間を振り返り印象に残ったアルバムをいくつか紹介することにしているが、今年もその紹介の役割をジャズライターの青木和富氏にお願いすることにした。彼は山梨県の富士山の真下~鳴沢村に住んでおり、東京までは長距離バスで来る。そのうえ足の具合も良くないのだが、収録の日は他の会合などもあり、それを熟してからスタジオに来るとのこと。もう感謝・感謝である
彼が用意してくれたアルバムは5枚ほど。そのタイトルなどは別項に載せられているので、それを参考にして欲しい。まずは今年最大のジャズニュースである、チック・コリアの急死。全く残念なことだがその彼の死を悼んで、代表曲とも言える「スペイン」をオリジナルアルバムから紹介、続いてチックと日本を代表するピアニスト、小曽根真のデュオアルバムから1曲など、今年1年間を振り返り色々と話は弾んだ。中々に充実したプログラムである。
と言うことでその実際は、番組の方でお聞き頂きたいのだが、ではプロデューサーのお前のベストは…と言う声も当然出てくる。毎年音楽雑誌などでも、そうした要望はあるが、そんな時にぼくが挙げるのは、海外のアルバムでは今年は珍しくボーカルもの。番組でも以前取り上げた、今最も重要なボーカリストの一人、グレッチェン・パーラトのほぼ10年振りのアルバム『フローラル』。これがベストかは何とも言えないが、この1年間ぼくが最もよく聴いた、愛聴アルバムであることは間違いない。デビッド・ボーイのヒット曲や、ブラジルの作曲家、ピシンギーニャ等の銘曲を、メローネスと吐息で実にセンス良く歌い上げる、洗練味の極致とも言えるボーカルを披露している。何よりバッハの無伴奏チェロ組曲を取り上げている所が最高。痺れます。
国内アルバムの方は、ぼくもその制作に一部関わった、世界的にも珍しいアルバム『メディテーション・フォー・オルガン&サックス』にした。オルガンとサックスのデュオアルバム、これがどうして世界でも初なの…と疑問に思う向きも多い筈。しかしそのオルガンが普通のジャズオルガンでは無く、教会などにあるあの荘厳なパイプオルガン、と知ったらばきっと驚かれるに違いない。パイプオルガンでジャズを…、と言うのがまずめったに無いケース。その上にそれがジャズサックスとデュオを交す…と言うのだから、これは間違いなく世界初のチャレンジングな企画。この試みに果敢に挑戦したのが、パイプオルガン奏者でジャズピアニストの岩崎良子。その相手役は日本のコルトレーン派の代表格、竹内直で、聖路加国際病院のチャペルにあるパイプオルガンを用いて、7カ月間かけて作られた画期的なアルバムなのである。
岩崎さんは早稲田大学のジャズ研の後輩。その彼女から「この企画どうでしょうか…」と最初に相談された時、大変だが画期的なものとして大推奨、相手役は直ちゃんこと竹内直しかいないと彼を推した。半年間以上の収録後もアルバム発売先を紹介したり等、結構このアルバムに関わって来ただけに、完成は嬉しかったし様々な場所で話題になっていることも嬉しい限り。バッハとコルトレーンの世界が交差する、世界でも稀なこのアルバム。年末年始にもピッタリなものとして推薦します。ディスク・ユニオンのDIWレコードから発売中ですから、よろしく応援の程お願いします。間違いなく世界初企画のジャズ&宗教歌アルバムなんですから…。
ラジオNIKKEI第1 2021年12月30日 記事より転載